01この記事でできるようになること

この記事を読むと、法人化した独立Webマーケターが役員報酬を決める手順が分かります。会社に残す利益と自分の報酬の配分の考え方から、決議の手順、毎月の支給を続ける理由までを扱います。

先に断っておきます。役員報酬の最適な金額は、売上規模・経費構造・家族構成によって変わります。この記事は具体的な金額の正解を示すものではなく、決め方の手順と、外してはいけないルールを整理するものです。最終的な金額の判断は、税理士に確認しながら進めてください。

02前提(対象読者・必要な準備)

対象読者は、個人事業から法人成りした、または新規に法人を設立した独立Webマーケターです。まだ法人化を検討中の段階であれば、先に『Webマーケターの法人化ライン、売上のどこで判断するか』を確認してください。

準備しておくものは3つあります。直近1年の売上と経費の実績、翌期の売上見込み、生活費として毎月必要な金額です。これらが揃っていないと、役員報酬の水準を検討する土台が作れません。売上と経費の実績は、確定申告書や決算書に記載された数字をそのまま使えます。

役員報酬の決め方には、会社法上のルールと税法上のルールの両方が関わります。この記事では、独立Webマーケターが特に見落としやすい、税法上の「定期同額給与」という要件を中心に扱います。

なお、まだ個人事業のままで法人化を迷っている段階の方は、この記事の対象ではありません。先に『Webマーケターの法人化ライン、売上のどこで判断するか』で、法人化そのものを検討する材料を確認してください。この記事は、法人化した後に役員報酬という新しい論点へ進む方を対象にしています。

役員報酬の設計は、独立して事業を続けていくうえでの論点の1つです。単価改定・チーム化・案件切れリスクへの備えといった、続ける段階の全体像は『独立Webマーケターの単価改定とチーム化、事業を伸ばす道筋』で整理しています。

03手順1、会社の利益の見込みを立てる

最初にやることは、金額を決めることではなく、翌期の利益の見込みを立てることです。売上の見込みから、外注費・ツール費用・家賃などの経費を差し引き、役員報酬を支払う前の利益がどれくらいになるかを試算します。

見込みが立てにくい場合は、直近の実績を保守的に見積もる方法が現実的です。楽観的な見込みで役員報酬を高く設定すると、後述するつまずきポイントのように資金繰りが苦しくなることがあります。

役員報酬を決めるまでの5つの手順 法人化した独立Webマーケターが役員報酬を決めるまでの手順を、利益見込み→配分の仮決め→株主総会での決議→期限内の完了→毎月同額での支給という5つの段階で示すフロー図。 役員報酬を決めるまでの5つの手順 事業年度が始まってから3か月以内に完了させる 手順1 利益の 見込みを 立てる 手順2 配分を 仮決めする 手順3 株主総会で 決議し 議事録を残す 手順4 期首から 3か月以内に 完了させる 手順5 毎月同額で 支給を 続ける 手順3・4は特に期限が厳しく、事業年度開始から3か月を過ぎると増額分が経費として認められない 翌期の利益見込みは、この期限に間に合うよう早めに立てる 具体的な金額の最適解は税理士に確認しながら決める 出典: 国税庁「定期同額給与」(2026-08-08時点確認)
役員報酬を決めるまでの5つの手順

04手順2、法人に残す利益と役員報酬の配分を仮決めする

利益の見込みが立ったら、その利益をどう配分するかを仮決めします。役員報酬として個人へ出す部分と、法人に利益として残す部分の割合です。

配分の考え方には、法人税と、所得税・住民税・社会保険料の負担構造の違いが関わります。役員報酬を高くすると法人の利益が減り、法人税の負担は下がります。一方で個人の所得税・住民税・社会保険料の負担は上がります。逆に役員報酬を低く抑えると法人に利益は残りやすくなりますが、個人の手取りは増えません。

どちらか一方が常に有利というわけではなく、売上規模や家族構成によって最適な配分は変わります。この配分の考え方はあくまで一般的な傾向です。

役員報酬の水準と、法人・個人それぞれの負担の関係 役員報酬を高く設定するほど法人税の負担は下がり法人に残る利益は減る一方、個人の所得税・住民税・社会保険料の負担は増えるという、トレードオフの関係を天秤で示す図。どちらが有利かは売上規模や家族構成で変わる。 役員報酬の水準と、法人・個人の負担の関係 どちらか一方が常に有利というわけではない 役員報酬を高くすると ・法人の利益が減る ・法人税の負担が下がる ・個人の所得税/住民税が増える ・社会保険料の負担が増える 役員報酬を低くすると ・法人に利益が残りやすい ・法人税の負担は下がりにくい ・個人の税・保険料負担は軽い ・個人の手取りは増えない 配分 仮決め 最適な配分は、売上規模・経費構造・家族構成によって変わる この図は一般的な傾向の整理であり、具体的な税額の試算ではない 実際の配分は税理士に確認しながら決める 2026-08-08時点の一般的な制度の枠組みに基づく整理
役員報酬の水準と、法人・個人それぞれの負担の関係

05役員報酬の水準を考えるときの参考例(イメージ)

数字が無いと配分の考え方をイメージしにくいため、仮の例で示します。年間の利益見込みが800万円だったケースを想定した、考え方のイメージです。

役員報酬の水準(年額)法人に残る利益のイメージ個人側の負担のイメージ
低め(月25万円、年300万円)多く残る軽い
中間(月33万円、年400万円)中程度残る中程度
高め(月42万円、年500万円)少なく残る重くなる

この表が示すのは、「役員報酬を上げるほど法人に残る利益は減り、個人側の負担は増える」という関係の方向性です。具体的な金額や税率は年度や個人の状況によって変わります。年間の利益見込みは会社ごとに異なるため、表の300万・400万・500万という数字自体をそのまま自分のケースに当てはめないでください。

社会保険料が同時に増減する点も見落としやすいポイントです。役員報酬を上げると、法人と個人の双方が負担する社会保険料も比例して増えます。手取りの増加分は、額面の増加分よりも小さくなる場合があります。この関係を知らずに額面だけで水準を決めると、想定より手取りが伸びずに戸惑う結果になりがちです。

06手順3、株主総会で金額を決議し議事録を残す

配分を仮決めしたら、株主総会(1人会社であれば代表者本人)で役員報酬の金額を決議します。決議した内容は議事録として書面に残し、保管してください。

議事録には、決議した日付、決議した金額、適用開始の事業年度を明記します。税務調査の際に、役員報酬がいつ・いくらに決まったかを証明する書類になります。

1人会社であっても、この手続きを省略しないでください。株主が自分だけであっても、決議の記録を残す作業そのものが、定期同額給与の要件を満たすうえでの証拠になります。作成した議事録は、会社の帳簿類と一緒に保管しておきましょう。

07手順4、事業年度開始から3か月以内に決議を終える

役員報酬を法人の経費(損金)として認めてもらうには、「定期同額給与」という国税庁の要件を満たす必要があります(出典: 国税庁 No.5211「役員に対する給与」)。

編集部が2026年8月8日時点で国税庁の公式ページを確認したところ、定期同額給与として認められる代表的な改定は、事業年度が始まってから3か月以内に行う「通常改定」でした。この期間を過ぎてから増額すると、増額分が法人の経費として認められない場合があります。

つまり、役員報酬の金額は事業年度が始まる前後、遅くとも3か月以内に決めておく必要があります。翌期の利益見込みを早めに立てる理由は、この期限に間に合わせるためでもあります。

定期同額給与、1年のうち改定できる期間とできない期間 事業年度を1年の時間軸で示し、期首から3か月以内は役員報酬の通常改定ができる期間、それ以降は原則として金額を変更できない期間であることを表す図。例外は臨時改定事由と業績悪化改定事由に限られる。 定期同額給与、改定できる期間とできない期間 事業年度1年間の時間軸で見た場合 事業年度の経過 期首 事業年度開始 通常改定できる期間 期首から3か月以内 原則変更できない期間 3か月経過後〜期末 例外は「臨時改定事由」と「業績悪化改定事由」による減額のみ 単に資金繰りが厳しいという理由だけでは例外にあたらない 該当するかどうかは税理士または国税庁の公式情報で確認する 出典: 国税庁「定期同額給与」(2026-08-08時点確認)
定期同額給与、1年のうち改定できる期間とできない期間

08手順5、決めた金額を毎月同額で支給し続ける

定期同額給与のもう1つの要件は、決めた金額を事業年度を通じて毎月同額で支給することです。原則として、事業年度の途中で金額を変更することはできません。

例外として認められるのは、役員の地位や職務内容が大きく変わった場合の「臨時改定事由」と、経営状況が著しく悪化した場合の「業績悪化改定事由」による減額です。どちらも限定的な事由にあたります。単に「今月は資金繰りが厳しいから」という理由だけでは、この例外には該当しません。

09つまずきポイント(失敗例つき)

よくあるつまずきの1つは、期首から3か月を過ぎてから役員報酬を増額してしまうことです。売上が好調に推移し始めたタイミングで増額を決めると、要件を満たさず増額分が経費として認められない結果になりかねません。

もう1つのつまずきは、翌期の利益見込みを楽観的に立てすぎることです。高めの役員報酬を設定した後に売上が想定を下回ると、法人の資金繰りが厳しくなります。役員報酬の支払いそのものが負担になる場合もあります。

社会保険料の負担を見落とすつまずきもあります。役員報酬を上げると、法人と個人の双方が負担する社会保険料も増えます。額面の増加分が、そのまま手取りの増加になるわけではありません。

議事録を作らない、または作っても保管しないというつまずきも見られます。税務調査で決議の経緯を示せないと、役員報酬の損金算入が否認されるリスクが高まります。

法人化した直後は、個人事業のときの生活費の感覚のまま役員報酬を決めてしまうつまずきもあります。個人事業のときの手取りと、法人化後の役員報酬の額面は性質が異なる数字です。同じ金額に設定しても、社会保険料の天引き分だけ実際の手取りは少なくなる点に注意してください。

10完了の確認方法(できたかどうかの判断基準)

以下が揃っていれば、役員報酬の設計手順は完了しています。

  • 翌期の利益見込みを、保守的な前提で試算した
  • 役員報酬と法人に残す利益の配分を検討し、仮決めした
  • 株主総会で金額を決議し、議事録を作成・保管した
  • 事業年度開始から3か月以内に決議を終えた
  • 決めた金額を毎月同額で支給する体制を整えた
  • 具体的な税額の見通しについて、税理士に確認した

この手順は一度きりのものではなく、事業年度ごとに繰り返します。翌期以降も、期首の3か月以内という期限は変わりません。前期の実績を踏まえて見込みを立て直し、同じ手順を毎年たどることになります。

独立して間もない段階で法人化を迷っている場合は、役員報酬より先に法人化そのものの判断基準を確認しておくほうが順序として自然です。WEBMARKSの案件獲得データでは、案件獲得者の70%以上が2案件以上を獲得しています。対象は2020年〜2025年の案件獲得データです(出典: WEBMARKS案件獲得データ集計)。取引先が増えるほど、法人としか契約しないという要件に直面する場面も増えていきます。

11FAQ

役員報酬はいくらに設定するのが正解ですか

決まった正解はありません。売上規模・経費構造・家族構成によって最適な水準は変わります。この記事で示したのは決め方の手順であり、具体的な金額は税理士に確認しながら決めてください。

役員報酬を0円にすることはできますか

制度上は可能ですが、生活費をどこから得るかという別の問題が生じます。個人の生活費を法人からの貸付という形で賄うと、別の管理上の負担が発生します。

一度決めた役員報酬は、事業年度の途中で変えられますか

原則として変えられません。定期同額給与の要件により、事業年度を通じて毎月同額で支給する必要があります。変更できるのは、役員の地位や職務内容が大きく変わった場合と、経営状況が著しく悪化した場合に限られます。

役員報酬を高くすれば節税になりますか

一概にはいえません。役員報酬を高くすると法人税の負担は下がる一方、個人の所得税・住民税・社会保険料の負担は上がります。どちらが有利かは、売上規模や個人の他の所得状況によって変わります。

法人化する前の判断基準はどこで確認できますか

『Webマーケターの法人化ライン、売上のどこで判断するか』で、法人化を検討する材料を整理しています。役員報酬を検討するのは、この判断のあとの段階です。

経費として計上できる項目は個人事業のときと同じですか

考え方は近いものの、法人と個人事業では扱いが異なる項目もあります。個人事業の経費については『フリーランスWebマーケターの確定申告、経費に計上できる項目』で扱っています。

役員報酬とは別に、賞与のような形で追加の支給はできますか

事前に税務署へ届け出た金額・時期であれば、「事前確定届出給与」として認められる場合があります。届出をせずに不定期な支給を行うと、その分が損金として認められないことがあります。この記事では、毎月支給する定期同額給与を中心に扱っており、賞与的な支給の詳細は対象外です。