01この記事でできるようになること
この記事を読むと、屋号で活動してきた独立Webマーケターが法人成りするときの、実務上の手続きの流れが分かります。会社の基本事項を決める段階から、登記、税務署・年金事務所への届出、取引先への切替連絡までを扱います。
先に断っておきます。この記事は手続きの流れを示すものであり、法人化するべきかどうかの判断は扱いません。法人化を検討する材料は『Webマーケターの法人化ライン、売上のどこで判断するか』で整理しています。この記事は、法人化すると決めたあとの実務を対象にしています。
02前提(対象読者・必要な準備)
対象読者は、個人事業として屋号で活動しており、法人成りを決めた独立Webマーケターです。屋号や契約形態そのものの決め方は『フリーランスWebマーケター、屋号と契約形態の決め方』で扱っています。この記事は、その決定を終えた次の段階を扱います。
準備しておくものは、会社の基本事項の案(商号・事業目的・本店所在地・資本金・役員構成)、実印を作る準備、必要な費用です。株式会社の設立には、定款認証や登録免許税などの費用がかかります。
手続き先は大きく5つに分かれます。法務局、税務署、都道府県・市区町村、年金事務所、そして取引先です。順番を間違えると手戻りが発生するため、この記事の手順どおりに進めることをおすすめします。
代表的な必要書類を、手続き先ごとに一覧にしました。
| 手続き先 | 主な提出物 | タイミングの目安 |
|---|---|---|
| 法務局 | 定款、発起人の印鑑証明書、設立登記申請書 | 定款認証の後 |
| 税務署 | 法人設立届出書 | 設立の日(設立登記の日)以後2か月以内 |
| 税務署 | 青色申告承認申請書 | 設立の日以後3か月を経過した日と設立第1期の事業年度終了の日のうちいずれか早い日の前日まで |
| 都道府県・市区町村 | 法人設立届出書 | 設立後、自治体の定める期限内 |
| 年金事務所 | 健康保険・厚生年金保険 新規適用届 | 事実発生から5日以内 |
| 取引先 | 契約名義変更の連絡 | 口座開設後、できるだけ早く |
この一覧はあくまで代表的なものであり、事業内容によって追加で必要な届出があります。
03手順1、会社の基本事項を決める
最初に決めるのは、商号(会社名)、事業目的、本店所在地、資本金の額、役員構成です。商号には「株式会社」などの文字を含める必要があります。屋号をそのまま商号に使うことも、新しい社名を検討することもできます。
事業目的は、実際に行う事業の内容と一致させてください。将来行う予定の事業も含めておくと、後から目的を追加する手間を省けます。Webマーケター業であれば、SEOコンサルティング、広告運用代行、コンテンツ制作など、実際に手がける業務を具体的に書き出しておくと、目的の記載に迷いにくくなります。
本店所在地は、自宅を登記上の住所とすることも可能です。ただし、自宅の賃貸契約によっては法人登記が制限される場合があります。資本金の額は1円から設立できる制度上の仕組みがありますが、実務上は当面の運転資金をまかなえる金額を設定するケースが一般的です。
04手順2、定款を作成し認証を受ける
会社の基本事項が固まったら、定款を作成します。株式会社の場合、定款は公証役場で認証を受ける必要があります。定款には、商号・事業目的・本店所在地・資本金・発起人などの基本事項を記載します。
電子定款という形式を使うと、紙の定款にかかる収入印紙代を抑えられる場合があります。自分で対応するか、専門家に依頼するかは、時間的な余裕と費用のバランスで判断してください。
05手順3、設立登記を申請する
定款の認証が終わったら、法務局へ設立登記を申請します。登記が完了した日が、会社の設立日になります。
登記には、定款のほか、発起人の印鑑証明書などの書類が必要です。
06手順4、税務署へ届出を行う
会社設立後は、税務署への届出が必要です。国税庁によると、法人設立届出書は設立の日(設立登記の日)以後2か月以内に提出する必要があります(出典: 国税庁「新設法人の届出書類」)。
青色申告承認申請書の提出期限は、法人設立届出書とは異なります。国税庁によると、「設立の日以後3か月を経過した日と設立第1期の事業年度終了の日とのいずれか早い日の前日まで」に提出する必要があります(出典: 国税庁「新設法人の届出書類」)。法人設立届出書と同じ「2か月以内」だと思い込んで後回しにすると、期限を過ぎてしまうおそれがあります。青色申告による税制優遇(欠損金の繰越控除など)を受けるためにも、書類ごとに期限を分けて管理してください。
編集部が2026年8月8日時点で国税庁の公式ページを確認しました。法人設立届出書・青色申告承認申請書のほかに、給与支払事務所等の開設届出書など、状況に応じて必要な届出が複数ありました。自分の会社に必要な届出を、早い段階で洗い出しておくことをおすすめします。
07手順5、都道府県・市区町村へ届出を行う
税務署への届出と並行して、都道府県や市区町村へも法人設立届出書を提出します。提出先や様式は自治体によって異なります。
08手順6、年金事務所へ健康保険・厚生年金保険の届出を行う
法人化すると、代表者も含めて社会保険への加入が原則になります。日本年金機構によると、健康保険・厚生年金保険の新規適用の手続きは、事実発生から5日以内に行う必要があります(出典: 日本年金機構「新規適用の手続き」)。
個人事業のときの国民健康保険・国民年金からの切り替え手続きについては『独立Webマーケター、国民健康保険と年金の切り替え手続き』で扱っています。法人化後の手続きは、この記事とあわせて確認してください。
役員報酬の水準によっては、社会保険料の負担が想像より大きく感じられることがあります。個人事業のときの国民健康保険・国民年金と、法人化後の健康保険・厚生年金保険では、保険料の計算方法そのものが異なります。事前にどの程度の負担になるか、目安を確認しておくと、資金繰りの見通しが立てやすくなります。
09手順7、個人事業の廃業手続きを行う
法人成りにともない、個人事業を廃業する場合は、税務署へ個人事業の開業・廃業等届出書を提出します。廃業届を出し忘れると、個人側の扱いが宙に浮いたままになります。
個人事業のときに青色申告をしていた場合は、あわせて所得税の青色申告の取りやめ届出書の要否も確認してください。個人事業の最後の確定申告は、法人化した年についても必要になる場合があります。個人事業の期間分の売上・経費は、法人化後の決算とは別に整理しておく必要があります。
10手順8、法人名義の口座を開設し取引先へ通知する
登記が完了したら、法人名義の銀行口座を開設します。屋号の口座から法人の口座への資金移動の手順も、あわせて確認しておいてください。口座開設には登記事項証明書などの提出を求められるのが一般的で、審査に一定の日数がかかる場合があります。
取引先へは、契約名義が屋号から法人へ変わることを通知します。請求書の発行元や、振込先の口座名義が変わる旨も、あわせて明記しておくと、先方の経理処理での混乱を防げます。連絡文の例を示します。
いつもお世話になっております。この度、個人事業として運営しておりました事業を法人化し、株式会社◯◯として新たに事業を継続する運びとなりました。つきましては、〇年〇月〇日以降の契約・請求につきまして、法人名義でのお手続きをお願いできますでしょうか。詳細な変更点は追ってご案内いたします。ご不便をおかけいたしますが、何卒よろしくお願いいたします。
この文例はあくまで型です。実際の契約内容や取引先との関係に応じて、文面や敬語の水準を調整してください。
11つまずきポイント(失敗例つき)
よくあるつまずきの1つは、税務署への届出期限を過ぎてしまうことです。法人設立届出書は設立から2か月以内という期限があり、他の準備に追われて後回しにすると期限を逃しかねません。
もう1つのつまずきは、屋号のままの契約が残ってしまうことです。取引先への通知を後回しにすると、請求書の名義や振込先の認識がずれ、入金の遅れにつながることがあります。複数の取引先がある場合は、通知の抜け漏れが起きやすいため、一覧にして管理することをおすすめします。
個人事業の廃業届を出し忘れるつまずきもあります。青色申告特別控除など、個人側の扱いが宙に浮いたままになる場合があります。
社会保険の切替を後回しにするつまずきも見られます。法人化後は代表者も原則として社会保険に加入するため、切替の手続きを先延ばしにすると、後から手続きが煩雑になります。
12完了の確認方法(できたかどうかの判断基準)
- 設立登記が完了し、会社の設立日が確定した
- 法人設立届出書を、設立から2か月以内に税務署へ提出した
- 都道府県・市区町村への届出を提出した
- 年金事務所へ健康保険・厚生年金保険の新規適用届を提出した
- 個人事業の廃業届を提出した(廃業する場合)
- 法人名義の銀行口座を開設した
- 主要な取引先へ、契約名義の変更を通知した
- 個人事業の最後の確定申告について、対応方針を確認した
この一連の手続きが終わって初めて、法人としての事業運営が実務上スタートします。1つずつ着実に進めれば、独力でも対応できる範囲の手続きです。単価改定やチーム化を含めた続ける段階の全体像は『独立Webマーケターの単価改定とチーム化、事業を伸ばす道筋』で整理しています。法人化は事業を続けていくうえでの1つの節目にすぎません。
13FAQ
手続きは自分で全部できますか
可能ですが、定款認証や登記の実務は専門知識が必要な場面もあります。司法書士や税理士に依頼する事業者も多く見られます。
法人成りの手続きにはどれくらいの期間がかかりますか
準備状況によって異なります。定款作成から設立登記の完了まで、一般に数週間程度かかるとされています。余裕を持ったスケジュールで進めてください。
取引先への通知はいつ行えばよいですか
設立登記が完了し、法人名義の口座が用意できた段階で通知するのが一般的です。手順8で示した文例を参考に、余裕を持って案内してください。継続中の契約が多い場合は、通知の順番を決めておくと抜け漏れを防げます。
屋号のまま契約を続けることはできますか
契約内容によります。取引先によっては、法人としか契約しない方針を取っている場合もあります。
個人事業のときの屋号は、法人化後も使えますか
会社名(商号)とは別に、事業ブランドとして屋号を使い続けることは可能です。ただし、契約書や請求書の正式な名義は法人名になります。
資本金はいくらに設定すればよいですか
制度上は1円からでも設立できます。実務上は、当面の運転資金や、取引先が確認する登記情報の見え方を考慮して設定するケースが一般的です。