01この記事でできるようになること

独学でWebマーケティングを学んでいると、知識は増えていくのに提示できる実績が無いという壁にぶつかります。この記事を読むと、実在のクライアントワークではない「模擬案件」を、公開情報だけを使って自分の手で作れるようになります。

模擬案件とは、すでに公開されているサイトや事業を題材に、自分なりの分析と改善提案をまとめた練習用の成果物です。報酬は発生せず、相手からの発注もありません。それでも、考え方の筋道や作業の質を第三者に見せる材料としては十分に機能します。

編集部が卒業生インタビュー記事35本(全128本のうち)を確認したところ、実績ゼロから1件目を獲得した経緯に触れていたのは15本でした。そのうち複数の記事で、学習中に作った成果物を提案時に提示する方法が語られていました。模擬案件は、この「提示できるものを先に作っておく」という考え方を、独学の初期段階から実践するための手段です。

学習を続けているだけでは、外から見て何ができるのかが伝わりません。模擬案件を1つ持っているだけで、応募先に「どんな視点で分析し、どう提案するか」という実物を見せられるようになります。

模擬案件づくり5ステップと時間の目安 対象選定から使い方を決めるまでの5ステップを、それぞれにかかる時間の目安つきで示すフロー図。対象選定30分、現状の洗い出し1〜2時間、改善提案づくり1〜2時間、ドキュメント化2〜3時間、使い方を決める30分の順に並ぶ。 模擬案件づくり5ステップ 対象選定から使い方を決めるまでの時間の目安 STEP1 対象選定 目安30分 STEP2 現状の 洗い出し 目安1〜2時間 STEP3 改善提案 づくり 目安1〜2時間 STEP4 ドキュ メント化 目安2〜3時間 STEP5 使い方を 決める 目安30分 対象を1つ選ぶ SEO・UI/UX・ 導線を確認 優先度順に 3〜5個へ整理 スライドか レポート化 応募資料か SNS発信へ 合計の目安は5〜9時間。分析の軸を1つに絞れば、さらに短縮できます
対象選定から提示までの模擬案件づくり5ステップを、かかる時間の目安つきで示すフロー図

02前提(対象読者・必要な準備)

対象読者は、独学でWebマーケティングを学んでいて、まだ有償の案件を1件も経験していない人です。学習の初期から中盤にかけて、インプットだけが先行している段階を想定しています。

必要な準備は3つです。1つ目は分析の軸を決めておくことです。SEO・UI/UX・導線のうち、どれを中心に見るかを先に決めておくと、分析が散らかりません。

2つ目は、無料で使える範囲の公開情報収集ツールです。検索結果の表示のされ方やページ構成は、対象サイトを実際に見て回るだけでも確認できます。特別な有料ツールを最初からそろえる必要はありません。

3つ目は、成果物をまとめるためのドキュメントツールです。スライド形式でも文書形式でも構いません。使い慣れているツールを選ぶほうが、作成そのものに余計な時間を取られずに済みます。

高価なツールやサーバーへのアクセス権は必要ありません。模擬案件は、あくまで公開されている情報の範囲内で完結させます。内部のアクセス解析データや非公開の売上情報を使う分析は、この記事が扱う模擬案件の範囲外です。準備に時間をかけすぎるより、手元にあるものでまず1本仕上げてみるほうが、独学の段階では学びが多くなります。

例えば「近所の飲食店の予約ページ」「よく使うネットショップの商品ページ」のように、身近で毎日のように接している対象を選ぶと、気づきが得やすくなります。縁もゆかりもない業界を選ぶより、自分がユーザーとしての実感を持てる対象のほうが、初めての模擬案件には向いています。

03手順1〜5

手順1|分析対象を選ぶ

最初に、分析する対象を選びます。もっとも安全なのは、自分自身が権利を持つサイトやSNSアカウントです。個人ブログや、練習用に自分で立てたサイトであれば、権利関係で悩む必要がありません。

第三者の実在サイトを選ぶ場合は注意が必要です。企業名を名指しして「ここが悪い」という論調で公開すると、意図せず誹謗中傷や信用毀損に近い扱いを受けることがあります。実在企業を扱う場合は、企業名を伏せて「ある中小企業のECサイト」のように匿名化し、あくまで自分の学習記録として扱うのが安全です。

対象を選ぶときの目安は、規模が大きすぎないことです。大企業のサイトは体制も複雑で、外から見える範囲の情報だけでは的外れな提案になりやすくなります。個人事業主や中小企業のサイトのほうが、公開情報だけでも実態に近い分析がしやすくなります。

対象を1つに絞れないときは、応募したい案件の業種に近いサイトを優先してください。飲食・美容・不動産のように業種を指定した募集は多く、対象業種に近い模擬案件を持っているだけで、提案時の話が具体的になります。逆に、業種を絞らない場合は、自分が普段ユーザーとしてよく使うサービスを選ぶと、気づきを見つけやすくなります。

手順2|現状を洗い出す

対象を決めたら、公開されている情報の範囲で現状を洗い出します。SEOであれば、検索結果での表示のされ方やページの構成を確認します。UI/UXであれば、初めて訪れた人がどこで迷いそうかという視点で見ます。導線であれば、問い合わせや購入までの動線の長さを数えます。

この段階では、断定した書き方を避けてください。内部のアクセスデータを見ていない以上、気づいたことは推測にとどまります。「〜という可能性がある」「〜と考えられる」という書き方を徹底すると、後の提案の信頼性が保てます。

洗い出す際は、気づいたことをそのまま箇条書きでメモしておくと、後の優先順位づけがしやすくなります。この段階で提案まで一気に書こうとすると、観察が浅いまま先に進んでしまいがちです。

手順3|改善提案にまとめる

洗い出した気づきの中から、優先順位をつけて3〜5個に絞り込みます。すべてを羅列すると、読み手にとって「結局どれが重要か分からない」資料になってしまいます。

それぞれの提案には、なぜそう考えたかという根拠を添えます。想定される効果についても触れますが、成果を保証する書き方は避けてください。「改善すれば成果が出る」のような言い切りではなく、「一般的にはこうした改善が効果につながりやすい」という書き方にとどめます。

優先順位をつける基準は、実装の手間と効果の見込みの2つで考えると整理しやすくなります。手間が小さく効果が見込めるものから並べると、提案全体に説得力が出ます。

想定効果を書くときは、数値で言い切らないことも大切です。「クリック率が◯%改善する」といった具体的な数字を、根拠なく断定すると、応募先に不誠実な印象を与えかねません。改善の方向性と、その理由を言葉で説明するだけでも、提案としては十分に成立します。

手順4|ドキュメント化する

提案をスライドかレポートの形にまとめます。ページ数は多くする必要はありません。現状・気づき・提案・想定される効果という4つの要素が、順を追って読めれば十分です。

可能であれば、改善前と改善後のイメージを並べて見せると、読み手に伝わりやすくなります。文章だけで説明するより、図やスクリーンショットを添えたほうが、第三者が短時間で内容を理解できます。

表紙には「模擬案件」であることを明記してください。学習目的で作成した練習用の資料であるという前提を、読み手と最初に共有しておくことが大切です。

手順5|使い方を決める

完成した模擬案件は、主に2つの場面で使います。1つは、案件に応募するときの提案資料への添付です。もう1つは、SNSでの発信素材としての活用です。

SNSで公開する場合は、対象を匿名化したまま、学びの過程として発信するのが安全です。学びをSNS発信に変える具体的なやり方は『独学のインプット、SNSでアウトプットに変えるWebマーケターの型』で扱っています。

実案件と模擬案件、3つの軸での違い 実案件と模擬案件を、報酬の有無・提示できる相手・使える情報の範囲という3つの軸で対比した図。実案件は報酬が発生し守秘義務があり非公開データも扱うが、模擬案件は無報酬で応募先に自由に見せられ公開情報のみを使う。 実案件と模擬案件、3つの軸での違い 実案件 模擬案件 報酬の 有無 発注書・請求書を 伴う報酬が発生 報酬なし (練習として作成) 提示できる 相手 守秘義務の範囲内に 限られることが多い 応募先に自由に 見せられる 使える情報 の範囲 非公開の内部データ も扱う 公開されている情報 のみに限る 模擬案件は実案件の代わりではなく、実績が無い期間を埋める練習として使います
実案件と模擬案件の違いを、報酬の有無・提示できる相手・使える情報の範囲という3つの軸で対比する図

04つまずきポイント(失敗例つき)

模擬案件づくりでよく見られる失敗が4つあります。

1つ目は、実在企業を名指しで批判的に分析し、そのまま公開してしまう失敗です。学習目的であっても、相手にとっては不本意な形で名指しされたことに変わりありません。匿名化を徹底することが最初の防波堤になります。

2つ目は、模擬案件の成果を「実績」と書いてしまう失敗です。模擬案件は報酬も発注も無い練習であり、実際のクライアントワークではありません。応募資料に載せるときは「模擬案件」「学習の一環として作成」と明記し、実際の受注実績と混同されないようにします。

3つ目は、内容が一般論の域を出ない失敗です。「SEOを強化すべき」「SNSを活用すべき」といった、どのサイトにも当てはまる指摘だけで終わると、読み手には「本当にこのサイトを見て考えたのか」が伝わりません。対象固有の具体的な観察を最低1つは入れる必要があります。

4つ目は、外部からの推測を断定調で書いてしまう失敗です。内部データを見ていない以上、断定はできません。推測であることを明示したうえで提案するほうが、かえって誠実さが伝わります。

良い模擬案件と、そうでない模擬案件の違いを整理すると、次のようになります。

観点良くない例良い例
対象の扱い実在企業を名指しで批判匿名化して学習記録として扱う
表記「実績」として提示「模擬案件」と明記
内容の具体性どのサイトにも当てはまる一般論対象固有の観察を含む
書き方推測を断定調で記述推測であることを明示
模擬案件の質を判定する2軸マトリクス 対象固有の具体性を横軸、主張の検証可能性を縦軸にした4象限マトリクス。両方が高い右上が良い模擬案件で、両方が低い左下が良くない例。片方だけ高い象限は改善の余地があることを示す。 模擬案件の質を判定する2軸マトリクス 対象は具体的だが 根拠は一般論 対象固有の観察と 推測の明示、両方あり =良い模擬案件 誰にでも言える一般論を 断定調で書いている 対象固有だが 推測を断定してしまう 対象固有の具体性 → 主張の検証可能性 →
模擬案件の質を「対象固有の具体性」と「主張の検証可能性」の2軸で判定するマトリクス

05完了の確認方法(できたかどうかの判断基準)

模擬案件が完成したかどうかは、次の3点で確認できます。

1点目は、対象を伏せた状態で第三者に読んでもらい、「なぜこの提案なのか」という根拠を説明なしで追えるかどうかです。根拠が追えない場合は、現状分析と提案のつながりが弱い可能性があります。

2点目は、模擬案件であることが一目で分かる表記になっているかどうかです。実績と誤解される書き方になっていないかを、提出前にもう一度確認してください。

3点目は、対象固有の具体的な観察が最低1つ含まれているかどうかです。一般論だけで構成されていないかを見直します。

この3点をすべて満たしていれば、応募資料への添付にもSNS発信にも使える状態だと判断できます。満たしていない項目があれば、その部分だけを作り直せば十分で、最初からすべてを書き直す必要はありません。

06FAQ

実在の企業名を出してもいいですか

避けたほうが安全です。企業名を名指しして批判的な分析を公開すると、意図せず信用毀損に近い扱いを受けることがあります。「ある中小企業のECサイト」のように匿名化して扱ってください。

模擬案件は何個作ればいいですか

決まった本数はありません。分析の軸(SEO・UI/UX・導線など)を変えて2〜3個作ると、応募先の案件内容に合わせて使い分けやすくなります。

模擬案件だけで転職やクライアントワークの実績になりますか

なりません。模擬案件は、実務経験の代わりになるものではなく、考え方の筋道を見せるための材料です。実際の案件獲得の進め方は『実績ゼロのWebマーケター副業、最初の営業文はどう書くか』で扱っています。

模擬案件の成果を「実績」と書いてよいですか

書かないでください。報酬も発注もない練習であるため、「実績」ではなく「模擬案件」「学習の一環として作成した提案例」と明記します。応募資料でのポートフォリオの見せ方は『Webマーケターのポートフォリオ、施策根拠を4層で見せる作り方』でも扱っています。

独学とスクール、どちらでも模擬案件は必要ですか

必要です。学び方の選択とは別の話で、実績が無い段階では独学でもスクール卒業でも、提示できる成果物があるかどうかが問われます。学び方そのものの選び方は『Webマーケターは独学と学校どちらか、5つの判断基準で決める』を参照してください。

模擬案件に取り組む時間が取れません。省略してもいいですか

省略すると、応募時に見せられる材料が学習履歴だけになります。1つだけでも作っておくと、応募先とのやり取りが具体的な話に進みやすくなるため、時間を作る価値はあります。分析の軸を1つに絞れば、最初の1本は数日でも形にできます。

SEO・広告・SNSのどれを分析の軸にすればいいですか

決まりはありませんが、自分が応募したい案件の種類に合わせるのが現実的です。SEO案件に応募したいならSEOの視点で、SNS運用案件に応募したいならSNS投稿の型を分析対象にすると、模擬案件と応募先の話がかみ合いやすくなります。