01この記事でできるようになること

この記事を読むと、稼働時間を案件別に記録し、時間あたりの実質単価に変換して把握できるようになります。案件ごとの収益性を比較し、単価改定や契約の見直しの判断材料として使う考え方も身につきます。

独立して案件数が増えると、忙しさの感覚と実際の収入が一致しなくなることがあります。この記事では、感覚ではなく数字で稼働時間を可視化し、次の判断につなげる手順を扱います。

会社員であれば、勤務時間と給与の関係は雇用契約であらかじめ決まっています。独立後はこの関係が自分で管理するものに変わり、記録を取らない限り、時間あたりの実質的な収入は見えないままになります。忙しいのに収入が伸びないと感じている場合、その原因は単価そのものではなく、記録されていない時間の使い方にあることも少なくありません。

02前提(対象読者・必要な準備)

対象読者は、複数の案件を並行して抱えている、または稼働時間の感覚と収入が一致しなくなってきたと感じている独立Webマーケターです。単価改定そのものの伝え方は『独立Webマーケターの単価改定、伝え方と反応別の対応』で扱っています。

準備するものは、記録用のツールです。専用のツールでなくても構いません。表計算ソフトやメモアプリ、手書きのノートでも記録は可能です。この記事では、ツールの選び方そのものではなく、何をどう記録し、どう活用するかの手順を扱います。

03手順1|記録する項目を決める

稼働時間の記録で分けるべき3つの区分 稼働時間を記録するときに最低限分けるべき、案件名・作業内容・かかった時間という3つの項目を示す図。移動時間や打ち合わせ時間を含めるかどうかをあらかじめ決めておくことも示す。 記録で分けるべき3つの項目 最低限、案件名・作業内容・時間の3つを分けて記録する 案件名 どの案件の 作業か 複数案件を またがず記録 作業内容 制作・打合せ・ 提案準備など 最初は粗い 粒度で十分 かかった時間 移動時間や 打合せ時間も 含めるか事前に 決めておく 続けられる粒度で始め、必要になってから項目を増やす
稼働時間の記録で分けるべき3つの区分

まず、何を記録するかを決めてください。最低限必要なのは、案件名、作業内容、かかった時間の3項目です。案件をまたいだ移動時間や、打ち合わせの時間も、記録に含めるかどうかをあらかじめ決めておくと、後で集計するときに迷いません。

作業内容は、細かく分けすぎると記録自体が負担になります。「制作」「打ち合わせ」「提案準備」程度の粗さで十分な場合が多く、まずは続けられる粒度で始めることをおすすめします。細かい分析が必要になった段階で、項目を増やしていく進め方でも構いません。

記録の単位も決めておくと迷いにくくなります。15分刻みで記録する人もいれば、30分刻みで十分と考える人もいます。刻みを細かくするほど正確にはなりますが、記録の手間も増えます。自分が続けられる単位を優先して選んでください。

複数の案件を並行している場合は、案件ごとに時間を分けて記録することが特に重要です。1つの作業時間を複数の案件にまたがらせて記録すると、あとで案件ごとの実質単価を計算する際に精度が落ちます。

どの案件にも属さない時間、たとえば営業活動や自己学習、確定申告の準備といった時間もあります。これらを記録するかどうかも決めておくと、後で「稼働時間の合計」と「案件に紐づく時間」を混同せずに済みます。案件外の時間が多い月は、その分だけ案件ごとの実質単価が高く出やすくなる点にも注意してください。

04手順2|記録の方法を選ぶ

記録の方法には、作業のたびに手動で記入する方法と、タイマーアプリで自動的に計測する方法があります。どちらが優れているというものではなく、続けやすい方法を選ぶことが重要です。

手動記入は、道具を選ばない手軽さがある一方、記入し忘れが起きやすい欠点があります。タイマー式は記録の精度が高い一方、切り替えを忘れると案件をまたいで計測してしまうことがあります。どちらの方法でも、1日の終わりに記録を見直す習慣をセットにしておくと、記入漏れに気づきやすくなります。

続けられなければ記録そのものが意味を持ちません。最初から完璧な記録を目指すより、まずは1週間続けてみて、自分に合う方法かどうかを確認することをおすすめします。

記録の手段は途中で変えても構いません。手動記入で始めてみて負担が大きいと感じたら、タイマー式に切り替える、あるいはその逆に切り替えるといった調整をしながら、自分にとって続けやすい形を探していく進め方でよいでしょう。手段そのものよりも、続けられるかどうかを優先してください。

05手順3|記録を時間あたりの実質単価に変換する

記録データから実質単価を計算する式と記入例 案件で得た月額報酬を、その案件にかけた合計時間で割ることで実質時給を求める計算式と、架空の数値による記入例を示す図。契約時の想定単価と実質単価がずれる場合があることを表す。 実質時給の計算式 数値は架空の例。実在の案件データではない 実質時給 = 案件の月額報酬 ÷ 記録した合計時間 例:150,000円 ÷ 25時間 = 6,000円 案件 月額報酬 合計時間 実質時給 A社(SEOコンサル) 150,000円 25時間 6,000円 B社(広告運用) 100,000円 28時間 約3,571円 C社(レポート作成) 40,000円 12時間 約3,333円 月額報酬の大小だけでは、実質時給の高さは判断できない
記録データから実質単価を計算する式と記入例

記録がたまったら、案件ごとの実質単価を計算してください。計算式は、その案件で得た報酬を、その案件にかけた合計時間で割るだけです。単純な式ですが、これを実際に計算してみると、契約時の想定単価と実質単価がずれているケースが少なくありません。

計算実演(架空の例)

以下は架空の数値例です。実在の案件データではありません。考え方を理解するための例として参考にしてください。

案件月額報酬記録した合計時間実質時給
A社(SEOコンサル)150,000円25時間6,000円
B社(広告運用)100,000円28時間約3,571円
C社(レポート作成)40,000円12時間約3,333円

この例では、月額報酬だけを見るとA社が最も高く見えますが、実質時給で比較すると差はさらに開いて見えます。逆に、月額報酬が低いC社とB社を比べると、実質時給の差は小さいことも分かります。月額の金額だけで案件の良し悪しを判断すると、実態を見誤ることがあります。

この計算はシンプルですが、初めて実行すると想定と違う結果に驚く人が少なくありません。契約時に「月額◯◯円で対応します」と決めた単価は、そのときに想定していた作業量をもとにしています。対応範囲が少しずつ広がっていくと、想定していた作業量とのずれが積み重なり、気づかないうちに実質時給が下がっていることがあります。

WEBMARKSの集計では、副業案件の時給が判明している14件の平均は2,207円です(出典: WEBMARKS案件獲得データ集計、2020年〜2025年)。この数字自体を目標値として使うものではありませんが、自分の実質時給がどの水準にあるかを確認する際の参考になります。

06手順4|案件ごとの実質収益性を比較する

案件別の実質時給を比較するイメージ 複数案件の実質時給を横棒グラフで比較し、実質時給が低い案件について、単価改定・対応範囲の見直し・継続判断のいずれかを検討する流れを示す図。数値は架空の例。 案件別の実質時給を比較する 数値は架空の例。実在の案件データではない A社 6,000円/時 B社 約3,571円/時 C社 約3,333円/時 実質時給が低い案件は、次の3択で検討する ① 単価改定を交渉する ② 対応範囲を見直す ③ 続けるかどうかを判断する 実績づくりや紹介につながる案件は、数字だけで判断しない 数字は判断材料の1つであり、総合的に検討する 棒の長さは実質時給の相対比較のための単純化
案件別の実質時給を比較するイメージ

複数案件の実質時給が出そろったら、横に並べて比較してください。実質時給が低い案件は、対応範囲が当初の想定より広がっている、または想定より手間のかかる作業が多い可能性があります。

比較した結果は、すぐに契約を切るかどうかの判断に直結させる必要はありません。実質時給が低い案件でも、実績として評価している、将来の紹介につながっている、といった理由で続ける価値がある場合もあります。数字はあくまで判断材料の1つとして扱ってください。

比較は1か月分だけで判断せず、複数か月分の平均で見ることをおすすめします。特定の月だけ打ち合わせが多かった、繁忙期で作業量が増えたといった一時的な要因で、実質時給が普段と大きくずれることがあります。3か月程度の記録がたまってから比較すると、より実態に近い判断ができます。

WEBMARKSの案件獲得データでは、案件獲得者の70%以上が2案件以上を獲得しています(出典: WEBMARKS案件獲得データ集計、2020年〜2025年)。複数案件を持つことが一般的である以上、案件間で実質時給を比較する視点は、多くの独立Webマーケターにとって使う機会がある考え方です。

07手順5|可視化した結果を判断に使う

実質時給が低い案件が見つかったら、次のアクションを検討してください。選択肢は主に3つです。単価改定を交渉する、対応範囲を見直す、そのまま続けるかどうかを判断する、です。

単価改定の具体的な伝え方は『独立Webマーケターの単価改定、伝え方と反応別の対応』で扱っています。実質時給のデータは、改定を伝える際の根拠の1つとしても使えます。対応範囲が当初の契約より広がっている場合は、その事実を示す材料にもなります。

稼働時間の可視化は、チーム化を検討する判断材料にもなります。自分の稼働時間が慢性的に上限に近い状態であれば、それは一人で回す限界のサインです。続ける段階全体の考え方は『独立Webマーケターの単価改定とチーム化、事業を伸ばす道筋』で扱っています。

記録を続けていくと、案件が増えるたびに合計稼働時間がどう変化するかも見えてきます。合計時間が上限に近づいているのに新しい依頼が来る状態が続くようであれば、外注化や単価改定のどちらか、あるいは両方を検討する時期が近づいている可能性があります。数字の変化を定点観測する習慣そのものが、続ける段階の判断材料になります。

08つまずきポイント(失敗例つき)

稼働時間の可視化で、よくあるつまずきを整理します。

1つ目は、記録項目を細かくしすぎて、記録自体が負担になり続かなくなる型です。最初は粗い粒度で始め、必要になってから項目を増やす進め方のほうが継続しやすくなります。

2つ目は、移動時間や打ち合わせ時間を記録から除外してしまう型です。除外すると、実質時給が実態より高く見えてしまい、判断を誤る原因になります。

3つ目は、実質時給が低いと分かっても、感覚的な理由だけでそのまま放置してしまう型です。続ける理由がある場合は、それを言葉にして自分で納得したうえで続けることが大切です。

4つ目は、1回計算しただけで満足し、継続的に記録しなくなる型です。案件の内容は時間とともに変化するため、定期的に見直す習慣がないと、変化に気づけません。

5つ目は、案件外の時間(営業活動や自己学習など)を記録から漏らしてしまう型です。案件に紐づく時間だけを見て「稼働時間は十分に余裕がある」と判断してしまうと、実際の総稼働時間との差に気づけないまま、慢性的な忙しさの原因を見誤ることになります。

09完了の確認方法(できたかどうかの判断基準)

この記事の手順が完了したかどうかは、次の3点で確認できます。1つ目は、案件別に稼働時間を記録する仕組みが決まっていることです。2つ目は、記録から実質時給を計算できる状態になっていることです。3つ目は、実質時給が低い案件について、次のアクションを検討できていることです。

3つとも整っていれば、稼働時間の可視化としての最低限は整った状態です。記録は一度作って終わりではなく、案件の状況が変わるたびに見直していくものだと捉えてください。

10FAQ

稼働時間はどれくらいの期間記録すればよいですか

最低でも1か月分は記録することをおすすめします。案件によって作業量が月ごとに変動することがあるため、1か月未満の記録では実態を正確に反映しない場合があります。

記録が面倒で続きません。どうすればよいですか

記録項目を減らすことをおすすめします。案件名と時間の2項目だけに絞っても、実質時給を計算する目的は達成できます。続けられる粒度まで簡略化してから、再度始めてみてください。

実質時給が低い案件は、すぐに断るべきですか

一律に断るべきとは言えません。実績づくりや将来の紹介につながるなど、数字以外の理由で続ける価値がある案件もあります。実質時給は判断材料の1つとして扱い、総合的に判断してください。

稼働時間の記録は、確定申告にも使えますか

直接使えるとは限りません。確定申告に必要な記録は経費や収入の証憑が中心であり、稼働時間の記録とは目的が異なります。この記事で扱う記録は、あくまで自分の実質単価を把握するためのものです。

チームメンバーの稼働時間も同じ方法で管理できますか

考え方の一部は応用できますが、この記事は自分自身の稼働時間の可視化を対象にしています。外注メンバーの稼働管理は、発注内容や契約条件によって扱いが変わるため、別の観点での検討が必要です。

記録した実質時給を、そのままクライアントに見せてもよいですか

そのまま見せる必要はありません。実質時給の記録は、自分の判断材料として使うものです。単価改定を伝える際は、実質時給そのものではなく、実績や対応範囲の変化を根拠として示す進め方が一般的です。